最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)3760号 決定 1953年5月07日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐瀬昌三の上告趣意について。
所論第一点は、結局事実誤認の主張であり、第三点は量刑不当の主張であって、共に適法な上告理由に当らない。同第二点前段は昭和二二年勅令第九号第二条に独自の解釈を施して、同条は婦女を強制して売淫をさせた場合のみを対象として処罰するものであると主張するのである。が、第一条と対比するときに明らかなように、売淫がたとい婦女の自由意思による場合でもこれに含むと解すべきである。「婦女に売淫をさせることを内容とする契約」は、直接又は間接に、多かれ少かれその婦女を束縛し又は強制して売淫させる結果を招来するに至るものであって、婦女の個人自由の伸長を阻害するものであるから、公共の福祉のために処罰する妥当性があるわけである。同後段は、犯意に違法の認識を必要とするとの前提に立つ所論であるが、当裁判所屡次の判例とされているとおり違法の認識は犯意の要素ではなく、所論は結局刑罰法令の不知の主張に過ぎない。それ故、論旨はすべて採ることを得ない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)